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福岡高等裁判所 昭和42年(う)269号 判決 1967年8月11日

被告人 今村勲 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

被告人両名に対し当審における未決勾留日数中各一一〇日を原判決の各本刑に算入する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人両名および弁護人野林豊治提出の各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

被告人今村勲の控訴趣意第一点(事実誤認)について

しかしながら、原判決挙示の関係証拠および堀部靖の司法警察員に対する供述調書二通によれば、原判示(三)の(4) のとおり被告人は、前田喬から金策を依頼され、同人および中島菊雄と共謀して、取引先の社長堀部靖に贈物にするのでもなく、同人が買い受けることを約束したこともなく、被告人において代金支払の意思も能力もないのに、被害者に対し、取引先の社長に贈物にするからといい、支払の見込みのない小切手を交付して、被害者から時価金八二〇、〇〇〇円のダイヤモンド指輪一個の交付を受けたものであることを認めることができ、右証拠中右認定に反する部分は措信し難い。したがつて、右指輪が後に被害者に返還されたにしても、被告人は右指輪の詐欺の責任を免れない。論旨は理由がない。

同第二点(事実誤認)について

しかしながら、原判決挙示の関係証拠および被告人今村勲の司法警察員に対する昭和四一年一月一二日付供述調書、被告人沢井俊一の司法警察員に対する同月一八日付供述調書によれば、原判示(五)の(2) の別紙犯罪一覧表(第三)の4のとおり、被告人今村は被告人沢井と共謀して、被告人今村も被害者と直接交渉してラワンベニヤ板七〇〇枚を騙取したことを十分認めることができるので、論旨は理由がない。

被告人沢井俊一の控訴趣意一中事実誤認の主張について

しかしながら、被告人沢井は、原審公判廷において原判示(四)の(1) 、(2) 、(五)の(1) 、(2) の各事実を認めており、原判決挙示の関係証拠によれば、右各事実および原判示(四)の(3) の事実を十分認めることができる。そして、(イ)原判示(四)の(1) 、(2) の別紙犯罪一覧表(第二)の1ないし4の食料品の詐欺については、原判決挙示の関係証拠によれば被告人両名等が設立した阿蘇産業株式会社が多額の債務を有しその支払資金に窮したので、これを調達するため、被告人両名はもちろん右会社においても支払の意思も能力もないのに、右食料品を買い受けて騙取したものであることを認めることができる。速水正雄の司法警察員に対する供述調書によれば、速水正雄が被告人沢井に対し右食料品を朝日生命等の従業員に販売してやることを約束したことなどないことを認めることができ、井樋三津弥、榎本忠昭の司法警察員に対する各供述調書によれば、原判示(四)の(2) の別紙犯罪一覧表(第二)の4の食料品は被告人沢井が阿蘇産業株式会社名義で楢原商店から買い入れたもので、被告人は同商店店員井樋三津弥と榎本忠昭との間の右食料品の取引を仲介したに過ぎないものではないことを認めることができ、井樋三津弥の司法警察員に対する供述調書によれば、被告人沢井は昭和四〇年一月下旬原判示(四)の(1) の代金を楢原商店に支払つたことを認めることができるが、被告人沢井が右代金を支払つたのは代金支払のために振り出していた約束手形が不渡りになつた後井樋の催促により支払つたものであり、その他の右食料品の代金は全く支払つていないことを認めることができる。したがつて、被告人沢井は右食料品全部の詐欺の責任を免れない。(ロ)原判示(四)の(2) の別紙犯罪一覧表(第二)の5、6のテープレコーダー二台の詐欺については、原判決挙示の関係証拠によれば、速水正雄名義のクーポン券を使うことについて同人の承諾を得てはいたが同人および被告人沢井において代金支払の意思および能力もないのに、被告人沢井は右テープレコーダーを買い受けて騙取したものであることを認めることができる。(ハ)原判示(四)の(3) のキヤノンカメラ一台の詐欺については、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人沢井は、被告人両名等が設立した阿蘇産業株式会社の支払資金調達のため、被告人今村と右カメラの騙取を相談して騙取し、右カメラを担保にして借りた金二〇、〇〇〇円を右会社の経理係として受領しているものであり、右カメラは当初F一・八のものであつたのをF一・二のものと取り換えたものであるが、結局後者のカメラも被告人両名の欺罔行為により交付されたものであることを認めることができるので、被告人沢井は右カメラの詐欺の責任を免れない。(ニ)原判示(五)の(1) 、(2) の別紙犯罪一覧表(第三)の2のガスライターの詐欺については、原判決挙示の関係証拠によれば、被告人沢井は被告人両名等が設立した阿蘇産業株式会社の支払資金調達のため、被告人今村と右ガスライターの騙取を相談し、被告人今村において被害者と交渉して、その交付を受け、右ガスライターを処分して得た金員を被告人沢井において右会社の経理係として受領していることを認めることができるので、被告人沢井は右ガスライターの詐欺の責任を免れない。(ホ)原判示(五)の(2) の別紙犯罪一覧表(第三)の1、3のアサヒペンタツクスカメラ一台およびキヤノンカメラ一台の詐欺については、被告人沢井が購入名義人となり、被害者と買受の交渉をしたことを認めることができるので、被告人沢井は右カメラ二台の詐欺の共同正犯の責任を免れない。(ヘ)原判示(五)の(2) の別紙犯罪一覧表(第三)の4のラワンベニヤ板の詐欺については、原判決挙示の関係証拠および被告人沢井俊一の司法警察員に対する昭和四一年一月一八日付供述調書、被告人今村勲の司法警察員に対する同月一二日付供述調書によれば、被告人沢井は被告人両名が設立した阿蘇産業株式会社が多額の債務を有しその支払資金に窮したので、これを調達するため被告人両名はもちろん右会社においても支払の意思も能力もないのに、被告人今村と右ラワンベニヤ板の騙取を相談し、被告人沢井も被害者と直接交渉してその交付を受け、右ラワンベニヤ板を処分して得た金員を被告人沢井において右会社の経理係として受領していることを認めることができるので、被告人沢井は右ラワンベニヤ板の詐欺の責任を免れない。論旨は理由がない。

同控訴趣意一中法令適用の誤りの主張および弁護人の控訴趣意二(法令適用の誤り)について

所論は、いずれも原判決は判示(六)において被告人が偽造、行使した本件クーポン券を有価証券であるとしているが、本件クーポン券は私文書に過ぎないので、原判決には法令適用の誤りがある、というのである。

そこで、検討するに有価証券偽造、同行使罪にいう有価証券とは財産上の権利が証券に表示され、その表示された権利の行使にその証券の占有を必要とするものをいうと解するのが相当である。そして、山辺朝雪の司法警察員に対する供述調書、東百合子の検察官に対する供述調書二通によれば、西部日本信用販売株式会社はその加盟店と加盟店販売契約を結び、加盟店は、同社の会員が加盟店の商品を購入する場合、同社が発行する会員証を提示して、同社が発行する本件クーポン券と引換えに商品を販売し、加盟店は、受け取つた本件クーポン券を同社に提出して同社からその代金の支払を受け同社に一定の手数料を支払うこととし、一方同社は五人以上の各職域の代表者と西部日本信販購買会規約に基いて契約を結び、その職域の構成員を会員とし、会員に対し会員証およびクーポン券を交付し、会員は、前記のとおり会員証を提示して本件クーポン券と引換えに加盟店から商品を購入することができ、会員はその代金を同社の請求により職域の代表者および会員相互と連帯して分割払で支払うこととし、本件クーポン券には二、〇〇〇円券、一、〇〇〇円券、五〇〇円券、一〇〇円券の四種類があり、会員は各クーポン券に会員券と同じ印章により押印し、加盟店は両者の印影を照合して販売をすることになっていることを認めることができる。以上の事実によつてみると、本件クーポン券によつて会員は加盟店から商品を購入することが出来、さらにこれによつて加盟店は代金の支払を同社から受けることが出来るものであつて、購入、販売の際に会員証の提示が必要であるにしても、まさにその権利が本件クーポン券に表示され、その権利の行使に本件クーポン券の占有を必要とするものである。したがって、本件クーポン券は有価証券というべきで、原判決には法令適用の誤りはなく、論旨はいずれも理由がない。

被告人今村勲のその余の控訴趣意、被告人沢井俊一の控訴趣意二および弁護人の控訴趣意三(いずれも量刑不当)について

そこで、本件記録ならびに原審および当審において取り調べた証拠によつて考察するに、被告人両名にはいずれも同種の前科があること、本件犯罪は回数も多く、被害額も多額であること、被害弁償が大部分できていないことその他諸般の情状を総合すると、被告人今村を懲役二年八月等に、被告人沢井を懲役一年七月等に処した原判決の刑の量定は重過ぎることはなく、論旨はいずれも理由がない。

そこで、刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴を棄却し、刑法第二一条により被告人両名に対し当審における未決勾留日数中各一一〇日を原判決の各本刑に算入し、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により当審における訴訟費用は被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 塚本富士男 安東勝 矢頭直哉)

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